偽りの花嫁

旦那様は今からどこかへ出かけるのか身なりを整えてしまうと時計をチラリと見ていた。


時間が迫っているのだろうかベッドサイドテーブルに置いていた腕時計を取ると左腕にはめた。


「碧、今日から花嫁修業も始める。そのつもりで誕生日までにはもう少しレディらしくなってくれ」

「・・・・嫌です。私にだって心はあります。どこの誰とも知らない人とは結婚しません」


旦那様はかなり眉間にしわを寄せると私の腕を掴んで引き寄せた。その力の強さに怖くなって思わず目を閉じてしまった。


体が震えてしまうと旦那様は私を抱きしめてくれた。その逞しい胸にハッと目を開くと目の前に見えた旦那様からアフターシェーブローションの匂いが鼻をついた。


その匂いが、旦那様を一人の男性として、包まれている様な感覚に陥ってしまう。とんでもない発想をしてしまうと恥ずかしくなり旦那様の胸を押した。


しかし、力強い旦那様の腕からは逃げられなかった。


「高校卒業したら結婚するんだよ、俺と」


旦那様の口から出たその言葉に頭が真っ白になってしまった。とても冗談とは思えない口調なのに本気に取れないセリフだ。


大会社の社長の旦那様が、貧乏人のしかも借金のカタに取られている様な娘と結婚するはずがないと信じられなかった。
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