偽りの花嫁

きっと旦那様はからかって私の反応を見て楽しんでいるのだと思った。だから、勿論のこと、旦那様の言葉は信用していなかった。


旦那様の新品のスーツの匂いがとてもいい香りでアフターシェーブローションと混ざり頭がクラクラしてきた。


体から力が抜けると立っていられなくなる。そんな私を抱きかかえる様に旦那様はカウチソファへと座らせてくれた。旦那様のベッド続きに並んでいるシックな造りのカウチソファは私の様な使用人が座れるようなところではない。


慌てて立ち上がろうとすると旦那様に肩を抱き寄せられ引き寄せられた。その力強さにやはり逃げることなど出来なかった。


「嫌なら今すぐにでも結婚式を挙げても構わないんだぞ?」

「いったいなんの冗談なんですか?」

「親の借金の肩代わりをお前の2年間の奉公だけで終われるほど簡単に済む金額だと思っていたのか?」


それは十分に理解できる話しだった。私も変だとは思っていた。こんなお姫様の様な生活をさせてもらいながら借金など返せるどころか借金が増えているはずだ。


「お前の生活費の方が余程借金より大きいかもな」


その言葉にやはりと言う思いはあった。膨らむ借金を返す方法など最初からなかったのではないかと。
逆に逃げられないように借金を増やすのが簡単な方法だ。私は一生涯この人から逃げ通せないのだと分かってしまった。


< 16 / 17 >

この作品をシェア

pagetop