偽りの花嫁

「申し訳ありません。直ぐに淹れなおし致します」


きっと私の淹れたコーヒーがお気に召さないのだろう。昨夜の秘書というには素敵な女性と過ごされた夜の後の目覚めのコーヒーなのだ。そんな朝にはそれなりのコーヒーがあるのだろうが、私にはそれがどんなものか分かっていなかったのだろう。



「今朝のコーヒーは相変わらず美味しいと言っているんだ。変な奴だな」

「申し訳ありません」


来月の誕生日にここから解放されると、そのことばかりが私の頭を過ぎり旦那様へ尽くすことが疎かになりつつある。大きく息を吸うと心を引き締め改めて自分が借金の為に雇われた使用人だという事を再確認した。



「そう言えば、碧は学校はどうだ? 来年は卒業だろう? 進学するつもりなのか?」



珍しく旦那様が私の進路についてお話になるとは。借金の為にこの屋敷に来た当初はこれまで通っていた学校へは距離が合わずに転校した。それも旦那様の手配された学校へ。


私の身分には相応しくない学校だけれど、この家の住人である以上はその学校へ通う様にと旦那様も通われた学校へと転校させられた。最初は金銭感覚などすべてに於いて私とは住む世界が違う人達と上手に付き合えなかった。


その学校は富裕層の子息や令嬢の通うところで、私の様に富裕層にお仕えする人間の通うところではないのだから。だから、最初はとてもその学校での生活は辛かった。


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