偽りの花嫁
だけど今は僅かでも親しくなった友達も出来て楽しいと思える学校になっていた。そんな友達が出来たことが唯一の救いで私には有難い存在だ。
この屋敷でもそうだ。旦那様のご機嫌ばかりを伺う毎日に疲れ果て神経を擦り減らす一方だと思っていた矢先、同じ使用人の料理長の田中とその助手の田所の二人が居てくれたおかげで随分と心を慰めて貰ったものだ。
「大学へ進学しないのか?」
「そのつもりです。来月になるとある程度のことはハッキリすると思います」
そうだ。来月の誕生日にここを出て行けば、今、通っている学校も止めなければならない。そして、両親の許へ帰った後は多分学校へ通うなど悠長なことは言っていられない。
きっと、新しい職場を求め探しているのだろう。そんな光景を考えるとここでのこの生活も悪くないのだと思えた。
厳しい旦那様ではあるが、私も旦那様同様に贅沢な食事をさせてもらい、身分不相応な学校へも通わせてもらっている。その費用は全て旦那様が支払って下さっている。その上学校に必要なものは全て揃えて頂いている。
日頃の私が着る服もそうだ。使用人には勿体ないほどの衣服を揃えて下さる。旦那様のお世話さえしていれば私は他の仕事はしなくてもいい。
こんなに恵まれた生活はないのだと、感謝すべきなのに私は解放されることばかりを願っている。