MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~
「なにかあったんですか?」

「ん?」

「意味深だったので、日下さんにもなにかあったのかなと……」

 反応が見たくて、再びチラリと様子をうかがう。
 すると日下さんは自身の前髪をクシャリと右手でかき上げた。
 黒髪がするりと再び額に落ちてくる。その様子まで綺麗で胸がときめく。

「俺にもいろいろあるよ。このまま静かに生きていけたらそれでいいし、なにも望まないと、ずっと思ってきたのにな」

 どういう意味だろう。
 日下さんは今まで、なにもないつまらない人生でいいとあきらめてきたのだろうか。

 だけど……なにかあったのだ。
 その詳細まで聞く勇気も資格も私にはないけれど。

 それから沈黙が流れ、樹里のマンションの近くで車を停めてもらった。
 私が助手席のドアを開けると、日下さんまで運転席から降りてきてくれた。

「どのマンション?」

「あの茶色の建物です」

 樹里が住むマンションを指差してにっこり微笑みかけると、日下さんは車のエンジンを切ってドアをロックした。

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