MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~
「俺にとって、心から信頼できて尊敬する人は日下一朗さんだけだった。あの人だけが俺の支えになってくれたから。その人が望むなら、全部言われた通りにしようと思った。ある意味俺の人生は青年期に一度死んでいるみたいなものだったし、どう生きるかなんてどうでもよかったんだ。たとえマリオネットみたいな人生でも不満はなかった」

「そんな……」

 そんな寂しいことを言わないで、と口を挟みそうになった。
 だけどこの人の抱える闇は、決して小さいものではない。

「だけど妻が……俺に誰か気になる女性ができたことに気づいた。もしも俺がコソコソと不倫をした上で別れてくれと言い出せば、絶対に離婚せずにいようと決めていたそうだ。だけど俺は別れたいとは言わなかった。君と身体の関係もない。父親に義理立てする忠犬みたいな俺を見てきた妻は、不憫だと思ったんだろう。最後にプレゼントだと言って差し出してきたんだ。……離婚届を」

「……」

「お互いにそろそろ成長しよう、と」

 仮面夫婦でお互いに愛情はなかったと日下さんから説明を受けたけれど。
 奥さんは、少しは日下さんを好きだったのではないかと思う。
 すれ違いの生活を送りながらも、日下さんの変化をすぐに察知したのだから。
 本当に一切興味がない相手なら気づかないはずだ。

「義理のお父様のことはよかったんですか?」

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