ウサギの王子に見初められ。
狭いから手伝いとかいらないよ、飲んでてね、という三上くんに気を遣いつつも、結局座ってワインを飲み始めてしまった。
さっき言われたことを思い返してみる。
待つって言ってくれたよね。もっと好きになったらってことなのかな。えーと、泊まってもいいと思うくらいに?
そういうことでもないんだけどな、私は。いやだとかじゃなくて単に、緊張しているというか、なんていうか。
「まだ緊張してる?」
煮込み始めて手が空いたらしい三上くんが、私の隣に座りながら聞く。
「してないよ」
嘘だけど。ドキドキしてるとか、言えたらいいのにな。素直にかわいく。三上くんみたいにっていうとおかしいけど。
「そう? 警戒されるのは困るけど、意識されてるならちょっと嬉しい」
「嬉しい、の?」
「とりあえず男だって意識してもらえただけで、今はいいよ」
そうなんだ。私ばっかりなにかあるかもとか考えすぎなのかな。三上くんは確かに強引に押し倒すとか想像できないか。
付き合うからって、男の子だってすぐそういう気になる人ばかりじゃないのかも。こないだ『無防備に入っちゃダメ』って言ったのは一般論?
でもそう言われるとなんか、寂しい気もする。子供扱いじゃないけど、やっぱり女子力の低さ? 色気とか全然ないのは自覚してるけど。
「真奈ちゃんは、ほんとに好きな人とじゃなくちゃいやだとか、そういう感じでしょ?」
「ほんとに好きな人?」
「好きになってくれるまで待つから」
「え、待って。違うよ、そうじゃなくて」
「違った?」
三上くんはグラスからワインを少し飲んで間を取るようにした後、答えを待つように無言で見つめてくる。
私、言ってないんだ! と今頃気づく。三上くんは、待っててくれてるんだ、1ヶ月も。
考えてることがよくわからないなんてうじうじしてたくせに、自分は全然意思表示してないと今さら気づいた。
「好きじゃなかったらキスだってしないし」
ああ。ヘタレな私。これが精いっぱい。
「ほんと? オレのこと好きになってくれた?」
「うん。緊張しちゃうの、ごめんね」
それだけ?って感じでじっと見つめられる。
ここは、素直になるところ。息を深く吸った。
でも顔を見られるのが恥ずかしくて、耳元に口を寄せて言う。
「……大好き」
言えた。玉砕覚悟じゃなくて、受け入れてくれるってわかってての告白なのに、声が震えた。