ウサギの王子に見初められ。

耳から顔を離したとたん、三上くんが顔をひねって器用に口づけてきた。手にしていたグラスをことりと床に置く音がして、そのまま何度も唇が重なる。

背中に腕が回って、力強く引き寄せられ舌が入ってきたとき、思わず身体に力が入った。

身体が離れた気配に、嫌がってると思われたかと不安で目を開けたら、三上くんが見たことないような表情で私を見てる。

優しいっていうか、いたわるっていうか、不思議な目つきで、髪を撫でてくれる。

もう一度、今度は私の様子を伺うようにゆっくり時間をかけてキスをしてくれた。髪に手を差し入れて、優しく頭を支えるようにして。




「あのさ、じゃあもうひとつ聞いていい?」

至近距離のまま、小首を傾げて聞かれる。

「違うかもしれないけど、真奈ちゃんって初めて? 彼氏いたって聞いたと思うんだけど」

「付き合ったことはあるんだけど。でも半年くらいだったから、キス以上にはならなくて……」

最後はもごもごと言った。いつまでも恋愛下手な自分に焦って、私を気に入ってくれた人と付き合ってみたけれど、それこそキスも数えるほどで、ついタイミングをずらして避けちゃったりして、最後は向こうから愛想をつかされた。

あれは恋愛経験のうちに入るかなぁ、と内情を知る祥子には言われてて。でも一応なかったことにもできないし、大学の時に彼氏がいたことはある、と同期に聞かれた時に言ってある。




「それでか。ごめん、勘違いしてた。オレ、真奈ちゃんのこと大事にするから、怖がらないで」

「うん」

あの人とは、多分お互いあいまいな気持ちで付き合ってた。三上くんとなら、大丈夫。

「待つから」
「三上くんだから大丈夫」

声が被った。あれ、と目を見合わせて、三上くんが急に赤くなった。また笑いを堪えるように体を丸める。
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