恋の始まりは偽装結婚
 笠原さんには少し大きいと思ったブラックタキシードを、彼は見事に着こなしていた。

 やはりモデルか俳優なのだろうか? タキシードを着こなせる人は少ない。

 服に着られたような印象を受ける人が多い。ラスベガスはチャペルがたくさんあり、すぐに結婚できるから、そういう人を頻繁に見かける。

 その姿に惚けそうになると、牧師さまは彼の胸ポケットに白バラとカスミ草の小さなブーケを挿した。

 あの小さなブーケは、おそらく私のブーケから少し拝借したのだろう。

 大きな手で作ったのだと思うと、笠原さんのせいでまだ少しとがっていた神経が和らいでいくのを感じる。


「逃げた男よりカッコいいだろう?」

「えっ!?」


 考えていたことを見透かされたようで、驚いてしまう。彼は自分がイケメンなことを自覚しているのだろう。そうなると反抗心が芽生えてしまう。


「そ、そんなことないです。帰国してしまった彼もなかなかでした」


 笠原さんの平凡な顔立ちを思い出す。身長は佐伯さんより十センチは低いだろうか、百七十センチぐらいで、半年のアメリカ生活でお腹周りがスリムとは言えない彼だった。

 もしかしたら彼にはタキシードのウエストがきつかったかもしれない。

 タキシードはレンタルで、これなら合いそうだと、適当に選んでしまったのだ。


「ということは、俺もなかなかなんだな?」


『も』を強調して揚げ足を取られてしまう。

 ここは彼に気持ちよく演技してもらおうと微笑む。


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