恋の始まりは偽装結婚
「おふたりとも素晴らしい! ではチャペルへ移動しましょう」


 ドレスの裾を持ちながら歩く私に、佐伯さんはドアを押さえて先に通してくれる。

 紳士的な所作は、やっぱりこっちに住んでいるのかも。



 牧師さまはチャペルの入口で私たちを待たせると、小さなオルガンのイスに腰かける。

 木のイスが壊れてしまいそうだ。心配で見ていると、牧師さまは結婚行進曲を上手に弾き始めた。


「どうぞ、ゆっくり歩いてきてください!」


 牧師さまはオルガンを弾きながら指示を出す。


「こんなことまですみません」


 隣に立つ佐伯さんに言うと、彼の口元に笑みが浮かんだ。

 彼の笑顔を見たのは今が初めてだった。

 彼が笑顔を女の人に見せれば、イチコロだろう。
 
私は隣の魅力を気にしないように小さく深呼吸をすると、佐伯さんのリードでバージンロードを祭壇に向かってゆっくり歩き始める。

 小さな教会だから、十五歩も歩けば祭壇の前。

 でもその十五歩は、私にとって何かが心の中で芽生えた時間だった。その芽生えたものがなんだかわからない。ほんわかと、安心感のあるものだ。

 祖母に喜んでもらえるからなんだと思う。

 私たちが祭壇の前に立つと、牧師さまはオルガンを離れ、移動してくる。


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