恋の始まりは偽装結婚
「牧師さま、お願いします」


 あくまでも佐伯さんは私の言い分を無視する。

 半ば呆れまじりの顔になった私に、佐伯さんは悪戯する男の子のような笑みを浮かべた。

 そして、次の佐伯さんの行動にギョッとする。

 佐伯さんの手が私の腰に回り、引き寄せられ、ふたりの身体が密着する。

 驚いたせいなのか、私の心臓がドキドキとこれ以上ないほど暴れ出す。


「ちょ、ちょっとくっつきすぎです」


 離れようと佐伯さんの身体を押し返すけれど、できない。Tシャツから出た筋肉質の腕を思い出す。


「過去に恋人ぐらいいたんだろう? これくらいの演技ができないのか? それではおばあさんを喜ばせられないぞ」

「……わかりましたっ!」


 彼が演技をしてくれるのなら、便乗しない手はない。それでおばあちゃんに変な疑いをかけられないで済むのなら喜んで!

 でも、私には演技は向いていないようだ。顔がひきつったような感じで幸せそうに笑えない。


「ほら、笑えよ」


 佐伯さんは私の頬を両手で囲むと、ぐねぐねとマッサージを施す。


「佐伯さんっ、メイクが落ちちゃいます!」

「落ちるほどメイクしていないだろう? 口角を上げて」


 楽しそうな黒い瞳とぶつかる。それから佐伯さんは自分の頬をひっぱり、変な顔をする。でもイケメンだからそれほど変顔になっていない。それがおかしくなって、声を出して笑ってしまう。

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