素敵な夜はあなたと・・・

 優也が美佐を抱きしめている姿を見て初めて優也は自分を最初から妻として見ていないのだと知った。そして、美佐の娘だから大事にされただけで女として見られていたことは一度もないと知ってしまった。

 あれほど優しかった優也のあの優しさは偽りの優しさだったと分かりこんなに辛い思いをするとは思わなった。

 あまりのショックに気が動転していた茜に更に追い打ちをかけるものを見てしまった。



「ダメ!」

「美佐!俺と結婚するんだ!」


 美佐を抱きしめた優也は茜には一度もしたことのないキスをしていた。美佐を見つめる優也の熱い瞳にこれが男の人の表情なのだと思えてしまった。茜には一度も見せたことのない優也の男の顔を美佐に見せつけながら、優也の唇は美佐を離そうとしない。


 優也が何故一緒にクリスマスを過ごしたがらなかったのか理由が分かったような気がした。娘と一緒に過ごすより本物の妻と一緒に過ごしたほうが楽しいに決まっている。だから茜ではなく美佐の所へやって来たのだろうと思った。

 あまりのショックにどうやって二人に気付かれずに家を出たのか覚えていない茜。待っているタクシーの所へと行くが開いたドアに直ぐに乗れずにいた。



「お嬢さん? 大丈夫ですか?」


 タクシーに乗ったものの正気を失ったような茜の顔を見て運転手がかなり心配そうな表情をして見せた。


「大丈夫です。すいません、元のマンションへ戻ってもらえませんか?」


 茜は自分の行き場を失ったものの、今はあの優也とのマンションへ帰るほか家はないと分かると仕方なくマンションへとタクシーを走らせた。

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