クールなCEOと社内政略結婚!?
「お前も早く準備しろよ。まずは、その山姥みたいな頭、なんとかしろ」

 ちらりと私の髪を見てプッっと吹き出した。

 この人はどうしてもっと早く言ってくれないのだろうか。もうずっとからかわれっぱなしだ。

「いってらっしゃい」

 早く出ていって欲しくて、引きつり笑いを浮かべながら追い出すように言った。しかし、そんななげやりな態度なのに、孝文は笑顔だ。

「いってくる。あさ美」

 そう言ったと同時に、「チュ」っと小さなキスが私の唇に落とされた。

 え……、ちょっと。

 驚いて声も出さずに、ただ目を見開いている私の顔を見て、孝文はニヤリと笑うと、扉を開けて出ていった。

「何、今の……」

 何っていうか、キスだ。間違いなく唇同士が触れ合った。いや、何でこんな新婚じみたマネしないといけないの?

 いや、新婚には間違いないだけど。

 唇に指を持っていくと、さっきの感覚がよみがえってきて、カッっと頬が熱くなった。

 なんで私がこんな恥ずかしい思いしなくちゃいけないのっ!

 恥ずかしさが怒りに変わる。そして今朝も最初から最後までからかわれっぱなしで、今度は悔しさがこみ上げてきた。


 玄関で山姥スタイルのまま、ひとり百面相をしていた私の視界に、玄関に置いてある小さな置時計が目に入る。

「えっ……もうこんな時間っ?」

 急がないと、会社に遅れてしまう。

「っていうか……最寄り駅どこ?」

 慌ててスマホで検索をしながら、クロ―セットを開けて服を見繕う。しかしそのとき自分の姿が鏡にうつってぎょっとした。

……まだ山姥だった。

 それから超特急でシャワーを浴びた私は、身なりを整えると、文字通りマンションを飛び出して会社に向かったのだった。

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