コクリバ 【完】
「もう二度と来るな!おまえの顔なんて見たくねぇ!」

菊池雅人が背中を向ける。

「ま、待って。ちが、う……違うの!」

半分叫び声のようになった私の声は、菊池雅人どころか他の人にも聞こえたようで、何人かの人がこっちを振り返った。
菊池雅人がゆっくり戻ってくる。

「なんだよ。何が違うんだよ」
「ち、がうの。あれは私じゃなくて」
振り絞るように出した声は震えていた。

「は?」
「あ、あの絵。私じゃない」
「何言ってんの?」
「あの描かれてたしょ、少女は……」
「どう見てもおまえだろうが!」

掴みかかる勢いで菊池雅人が近付いてくるから、
殴られると、咄嗟に頭をかばった。

「みっともない言い訳するな!あのモデルがおまえだってみんな知ってるぞ」
「そうじゃなくて……」
「じゃぁ、あのホクロはなんだ。おまえ同じとこにホクロあるだろう。そんな奴他にもいるのか?」
「……」
「あんなとこにあるホクロを知ってるってことは、ヤったってことだろ?あいつを裏切って、市原と楽しんでたのはおまえだろ?」
「……」
「俺に嘘ついても無駄だから。おまえの腿のホクロはガキの頃から知ってんだよ」
「……」
「サイテーだな」
「……ううっ……くっ……」

悔しい。

何も言い返せない。

違うのに……
裏切ってなんかないのに……

何を言っても信じてくれない。
軽蔑するような目がずっと私を捉えている。

もう誰にも信じてもらえない。
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