コクリバ 【完】

ケガ

高木先輩が菊池自動車を辞めたのは、あの絵が貼りだされた直後らしい。

ともちゃんが調べてくれた。

しばらく無断欠勤が続いた後に辞めたいという連絡があって、それまでの高木先輩からは想像できない行動だっただけに、事情を知らない菊池雅人以外は全員反対したらしい。
それでしばらくは休みという形にして、「また戻りたくなったらいつでも戻って来い」と、菊池兄弟の父である社長が言ったという。

「だから義人君には理由を聞かれて奈々ちゃんとのことを話したの。ごめんね。でもちゃんとそれは誤解でって言ったからね」

ともちゃんが私の背中に触れていた。
私はハンカチに顔を埋めて、ただ何度も頷いた。

ありがとう―――

その一言が言えたのは、しばらくしてからだった。

「高木先輩は自衛隊の体験入隊っていうのに行ってるらしいよ。だから学校にも来てないんだって」

更に新しい情報まで教えてくれた。

体験入隊が終われば会える。

そんな僅かな期待でもすがり付きたかった。

会って「違う」って伝えたい。
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