コクリバ 【完】
ガタンと音がして、先輩がカウンターの中から出てきた。

大股で、一瞬の内に私の目の前まで来ると、ゆっくりその左腕が上がって右肩を掴まれた。

見上げると、褐色の瞳に映る私が揺れている。

その刹那、ぐいっと引っ張られ、倒れ込むように先輩の胸に顔を付けた。

「先輩……」


6年間、欲しかった温もりに、ようやく包まれた。


覆いかぶさるように抱きしめられる力強さに、
お腹の底から湧いてくる安心感に、
やっぱりこの人だと思う。

この場所が私が望んでいた場所なんだと……


溢れてくる涙は、なんの涙なんだろう。

嬉しいのか、苦しいのか……


そんな想いも全て先輩が包み込んでくれる気がした。



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