コクリバ 【完】

「はい。お取込み中、悪いんですけど。ここ、一応、喫茶店の中なんで」

背後からのマスターの気怠い声で、私たちは離れた。
離れたくなかったけど、仕方なく離れた。

隣りから高木先輩の視線を感じる。
見上げると先輩は微笑んで私の背中を押して、いつものカウンターの席に座らせ、自分は隣の席に座った。
その間も私たちはずっと見つめ合ったまま。

触れたい。
先輩の顔に触れたい……

マスターのわざとらしい咳ばらいが聞こえる。

「お客様。ご注文は?」
「……」
「……」
「おまえら!俺の存在をシカトするな!」

先輩が笑ってマスターの方を向く。
その横顔にも見惚れてしまう。

「はは…悪い悪い。ブレンドとブルマンを頼む」

「奈々ちゃんは俺の愛人なんだからな。目の前で手出すなって」

そのマスターの言葉は聞こえてなかったのか、高木先輩は私に身体ごと向き直った。

「奈々。俺が作ったガトーショコラ食うか?」

「はい」

「おまえだけじゃないだろ。俺も作っただろ!」

マスターが珈琲の準備をしながら叫んでいた。
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