コクリバ 【完】
それに気付いた瞬間、涙が溢れだした。

「うっ…誠也……」

タオルを顔に押し当て、声を出して泣いた。

会いたい、会いたい……

たまらなく不安になる。

せっかく高木誠也に触れることができたのに、また会えない日々が始まる。

「先輩……」

呼んでも返事はない。

「誠也……」

一人暮らしの部屋は、私が立てる音以外の音はない。

抱きしめられた力強さも、私の名前を呼ぶ声も、半年も覚えていられる自信がない。

すぐにでも戻って来て、私に触れてほしい。

安心させてほしい……


……---

一人で、思う存分泣いた。

泣いて泣いて、不安な気持ちを全て口にしたら、気持ちが軽くなった。


―――こんなんじゃ、あの人に嫌われる。


顔を洗って、電子ピアノのヘッドホンをはめた。

練習したい曲はたくさんある。

「ふぅー。頑張ろ」

独り言が口から洩れていた。
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