ここで息をする


中学の最後のプールの授業では、思い通りにならない悔しさとともに息苦しさを感じていた。あれ以来泳いでいないから今はどうなのかは実際に泳いでみないと分からないけど、あの頃と同じように感じる可能性は十分ある。

だって目の前にあるのは、息苦しさを理由に遠ざけた場所なわけで……。しかも最近は色々と気持ちが水泳に引き付けられたりして乱れているし、それが自分の泳ぎにどう作用するのかも予測不可能だ。

現に今だって緊張で心臓はうるさいし、冷静に泳げるのかも怪しい。


「えー、すごいなぁ! じゃあターンも出来るの?」

「うん。真紀はどうなの?」

「五分五分かな。出来ても不格好だったりするし、どこまで泳げるかもそれ次第だよ。100メートル泳ぐならターンは3回もしなくちゃいけないし、どうだろうねー」


この学校のプールは短水路と呼ばれる長辺が25メートルのプールで、先生が決めた最長距離を泳ごうとすると確かにターンの数はそれだけ必要になる。体力的に大丈夫だとしても、ターンが苦手なら途中で厳しくなるかもしれない。

私も水泳を始めた頃は、ターンが苦手だったっけ……。

懐かしい苦味を思い出して、きゅっと胸が締め付けられる。でもまだそんな息苦しさはましだ。

水の中で自由に動くための方法。それを身に付ける過程での苦悩と努力なら、そんなに嫌いじゃなかったから。

何よりも息苦しさを感じていたのは……そう、自由に泳げなかったとき。自分が思うように泳げなかったときだ。

好きな水の世界を好きだと思えずに泳いでいたあの頃が、一番つらかった。

いくら泳いでも苦しくて、どんなに息継ぎをしたって息なんて出来ていないと思うほどに苦しくて、いつも途中で身体が硬くなってしまったんだ。

苦しさまみれの時間だった。


「……っ」


ギリッと奥歯を噛んでいること気付いて、ゆっくりと息を吐いた。


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