ここで息をする
おまけに話しながら、本当に嬉しそうに笑っている。……だから、分かった。
共演者が私だと分かっていながら航平くんが役を引き受けた理由も、今日は今までみたいに気まずそうに接してこない理由も。
全部、水泳を手放した私が再びあの水の世界に近付こうとしているって分かったからなんだ。
航平くんはきっと、私が以前の私に戻ることを期待している。今でもあの場所で、私と一緒に居ようと思ってくれている。
……でも、どうなんだろう。
高坂先輩に影響されてこの役を引き受けることにしたのは確かだけど、それが私自身に根付いた息苦しさを完全に取り除いてくれる保証はない。
少しでも和らぐきっかけになればとは思ったけれど、以前のようにまったく息苦しさを感じずに泳げる私になれるかなんて、全然分からないんだ。
航平くんが望んでくれているように、これからも何かしらの形で水泳に関われるようになる自信なんて、私にはこれっぽっちもない。
それにそんなこと、私は望んでなんて……。
「……っ」
途端、喉に何かがつっかえるような心地の悪い息苦しさに見舞われた。何度も唾を飲み込んでどうにか誤魔化そうとするけど、どうも簡単には引っ込んでくれない。
……ああ、やっぱり。息苦しさは私を放してくれないんだ。
「……とりあえず、お互い無理しない程度に頑張ろうな」
迫り来る息苦しさをじっと耐えていた私の頭を、ぽんぽんと優しい手のひらの重みで慰められた。その仕草は幼い頃から航平くんが私を褒めたり励ますときによくしてくれたもので、それを知っている身体はたちまち安堵し始める。
上手く吸えている気がしなかった息が、徐々に平常のように可能になっていく。
航平くんの言動から感じる私の背中を押そうとする気持ちには、そう簡単に応えられない。
でも安心するそれは……嬉しかった。