ここで息をする


一人で盛り上がったり下がったりする季里とは反対に、真紀はもはや高坂先輩が私に向けていた視線にすら気付いていなかったらしい。だから私と季里の会話を聞いて、「どっちの展開でも衝撃だよ!」と三人の中で一番新鮮な気持ちで驚いていた。

そんな真紀を差し置いて、季里が身を乗り出しながらさらに聞いてくる。


「ねえ、本当にあの先輩と何もなかったの?」

「だからないってば……。第一先輩が私を見てたのは、キャストのイメージに合うのか確かめてたからだよ。目的は映画の役を頼むことだったんだから」

「でもー、実はそれが口実で、これから口説かれるなんてこともあるかもよ! そうでなくてもほら、これから撮影で夏休みを一緒に過ごすんでしょう? 一緒に居るうちに親密になって、恋とか芽生えちゃうんじゃない?」

「えー、ないと思うけどなぁ……」


とんでもない想像をきらきらした瞳で語る季里とは逆に、私の顔はたちまちしかんでいく。また進展があったら教えてねと期待を込めた声で言われてしまい、私はますます苦笑せざるを得なかった。

絶対あり得ないだろうなぁ……。

映画に情熱を注いで必死に頼んできた高坂先輩が、実は口説き目的でキャスト選びをしていたとはまったく思えなかった。しかも一緒に過ごすと言っても遊ぶわけではなく部活の撮影だし、季里が言うような浮かれた感じにはならないと思う。

むしろ大変だ。あのちょっと強引な監督のもとでの撮影だし、無茶ぶりとかされるかもしれない。あの性格を知っているだけに、一緒に過ごす中で季里が言うような可能性が自分の身に起こるなんて全然思えなかった。

第一、そんな恋愛に意識を向けている場合なんかじゃないしね。

私の仕事は引き受けた役をきちんと演じることだ。台詞だってたくさん覚えないといけないし……。


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