ここで息をする
昨日帰宅してから、再度目を通した台本。そして改めて台詞の多さに圧倒された、目を背けたくなるような現実を思い出して、静かに重い息を吐き出した。
そんな私の密かな悩みを知らない真紀が、興味深げな顔で尋ねてくる。
「そうだ、撮影する映画はどんな内容なの?」
「あー、ごめん。それは言えないんだよね。内容は文化祭の上映会まで内緒にしなきゃいけないみたいだから」
二人にはほとんどのことを話したけど、さすがに映画の内容については話していない。主役をやることは伝えたけど、どんな役をするかは秘密。
映画の詳細を知っているのは、制作に関わる人達だけ。宣伝したり封切りされるまでのお楽しみということらしい。これは打ち合わせのときに固く口止めされていた。
「あ、そっか。上映するんだもんね。そりゃあネタバレ出来ないよね。ていうか、波瑠が主演の映画かー。観るの楽しみだなぁ!」
「ね! 今から文化祭が楽しみになってきたー!」
「うわ……恥ずかしいから観なくても大丈夫だよ」
教えられない事情をあっさり受け入れてくれたのはよかったけど、それを説明するために上映会のことを言ったのがまずかった。すっかり映画を楽しみにしてい様子の二人を見て頭を抱える。
まだ撮影していないけど、自分が大概下手な演技をしている未来は容易に想像出来るから、友達に観られると思うとものすごく照れ臭い。いや、他の見知らぬ観客に観られるのもものすごく億劫なんだけどさ。
「頑張ってね!」
「絶対観るからね! 頑張って!」
「ははっ、ありがとう……。頑張るね」
こりゃあ本気で頑張らなくては……と、自分の演技力のなさに泣きそうになりながら、二人の応援を受けて密かに決意するしかなかった。