ここで息をする
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1学期最後の通常授業の日。明日から3日間は三者懇談会で、そのあとに終業式を迎えたら夏休み。
そんなどことなく心が浮かれ始めてくる日の放課後に、『In the water』のクランクインが予定されていた。
撮影するのは、“ハル”と“コウ”が部活帰りに一緒に下校する場面だ。
好きな人と二人きりで帰る道。普段なら緊張しつつも幸せと思える時間だけど、その日は練習でいまいちな泳ぎしか出来なかった自分への悔しさのあまり憂鬱なものになってしまう。おまけにいつでも絶好調な泳ぎをする幼馴染みを羨ましく思って、つい八つ当たりした末に落ち込んでしまう。
そんな“ハル”の、ライバルでもある思い人に寄せる複雑な心情が凝縮された、序盤の方で二人の現状を表現する重要なシーンである。
映画の撮影の順番が前後ばらばらなことは聞いたことあったけど、本当にそうらしい。映研部の撮影も、冒頭のプールのシーンから始まらなかった。
初日の撮影でいきなり泳ぐっていうのは私にはプレッシャーだったから、このスケジュール編成はありがたい。一度プールではない場所で撮影の手順や雰囲気を掴んで慣れておいた方が、後々のプールのシーンでも余計な緊張をせずに済みそうだから。
でも今日撮る場面にだって、それなりに重荷を感じている。だってこの場面、いくつもの感情が求められているから。素人演技でちゃんと表現出来るのか、とても怪しいほどに。
複雑な思いに悩んでいる“ハル”に、私の方がさらに悩まされていた。
「……には……いよ。私……なんて……」
午後6時を間もなく迎えるという頃。
学校の裏門脇に大きな影を作り出している大木の下で、今日までに暗記してきた台詞を確認するようにぶつぶつと唇を動かしていた。