ここで息をする


ちょうどそのとき、午後6時を告げるチャイムが校舎の方から聞こえた。どうやらそろそろ撮影の時間が近付いてきたらしい。

待ち時間が長かったあまり、やっとだなと思った。台詞を練習しながらもどこか撮影というものに実感を持てずにいたけど、時間を示す鐘の音で急に現実味を帯びてくる。さっきまで感じていなかった緊張が、ひょっこりと私の中で芽を出した。


「もうそろそろ、相川先輩来ますよね?」


裏門を抜けた先でカメラなどの機材とカメラワークを確認していた監督もとい高坂先輩に、佐原先輩が航平くんの到着時間を確認する。

高坂先輩の周りで撮影場所の最終確認をしていた如月先輩と田中さんも、チャイムで時間を察したのかさっきよりも少しばかり動きに緊張感が混ざっていた。それを見た私の緊張の芽は、無駄にすくすくと育ってしまう。


「ああ、着替えたらすぐ来るはずだからもうそろそろだな」

「分かりました。じゃあそろそろ嶋田さんのセットやりますね」

「おう、頼んだ」

「せ、セット……?」


何やら慌ただしくなる現場の雰囲気の中、突然私に関係しそうな会話が繰り広げられて一気に戸惑いが胸に渦巻く。

え、何。私、何か準備しなきゃいけないんだっけ……?

もしかして重要なことを私が忘れてしまっているのかと思案するけど、どうも何も思い出せない。緊張に混ざって余計な焦りが募り出していると、眉を下げていた私に佐原先輩が落ち着かせるように言った。


「そんな心配しなくても大丈夫よ。ちょっと、髪の毛をセットさせてもらうだけだから」


そう言った佐原先輩の手には、いつの間にかブラシと霧吹きがスタンバイされていた。とても手際がいい。


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