ここで息をする
先輩の顔は真剣な色を宿して引き締まっていて、監督モードに入っていることが分かった。
本番前の独特の雰囲気に一瞬どくんと鼓動が強くなるけど、もうそんなに緊張が尾を引くことはない。適度に張り詰めて集中している意識を保ちながら、私は力強く頷いてみせた。
「はい、大丈夫です」
「俺も大丈夫だ」
「――よし。じゃあ始めるぞ!」
気合いの入った声で、高坂先輩が全員を見渡す。
ついに、撮影スタートだ。
裏門の先は、上るのも下るのもなかなか苦労する勾配の坂道に繋がっている。正門だけでなくこちらからの登下校も認められているし、たまに運動部がこの坂でダッシュの練習をしていると真紀から聞いたことがある。
でも今日は運がいいと言うべきか、この時間帯の坂の利用者は一人も居なかった。辺りに居るのは、映研部のメンバーと私達キャストのみ。
坂の下には、三脚に乗せた外部マイク付属のカメラを覗いている如月先輩と、光を反射させるためのレフ板を持っている佐原先輩と田中さん、それから坂の頂上に居る私と航平くんを台本を持ったまま見上げている高坂先輩が待ち構えていた。
これからここを、航平くんと並んで歩いていくことになっている。この坂のシーンで二人は話しながら歩いているのだけど、そのアップの姿の前に遠目の二人の姿が少し入るらしく、まず先にそちらを坂の下から撮るようだ。
そしてそのあとに、私達二人のそばをカメラを持った如月先輩が動きながら撮ることになっている。遠くから撮るときは無言だけど、近くで撮るときは台詞も入るというわけだ。
まずは歩くだけのシーン。とは言ってもここでの“ハル”は部活の練習後で気持ちが沈んでいるわけだから、歩き方一つにも気が抜けない。