冷たい男
煙草を吸わない兄の名義で作ったtaspoを使って、マンション横にある煙草屋の自販機で自身の吸う煙草を購入。

勝手に持って来た風岡の鍵でオートロックを解除して戻ると、食事を終えた彼は、ソファーで横になりながらテレビを見てる。

テーブルを片付けて、お風呂もカビが生えないように水を流した。

コーヒーメーカーも綺麗にし、私はダイニングテーブルで、明日の提出予定である数学のプリントに取り掛かる。

本音を言えばやりたくない。

けど、成績だけは両親にも伝わる為、そつなく熟してる。

まぁ、そつなくと言えども、教科書を見ればたいていわかる。

真面目に取り込まなくても、学年上位で居られる為、苦になる程はやって居ない。



「もしもし。あぁ、まあな」



プリントも終わり、手持ち無沙汰になって来た頃に風岡の携帯が震えた。

相変わらず冷たい目。

だけど声が張ってる。

次第に、色を取り戻したような瞳に変わる。

少しだけ口元を緩める。

土日はわからなくても、毎夜20時頃に繋かって来る電話は、風岡に人間らしくさせた。

たまに漏れる電話の主の声は女性の笑い声。

この瞬間だけ、私は消えたくなる。

足音を起てないようにキッチンへと行き、風岡に背を向けて煙草をふかす。

音が静かな換気扇が憎い。

もう少し煩かったら、風岡の声を飲み込んでくれただろうに。

ピリピリと痺れる指先。

…また、出た……。

心苦しく泣きたくなる時、いつも起こる症状。
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