冷たい男
煙草を灰皿へと置き、しゃがんで指先を揉みながら息を整える。

しばらくすると痺れは治まり、気持ちが落ち着いて来る。

嫉妬がなくなった訳じゃない。

けど、泣きたいほど苦しくない。



「お茶」



「うん」




電話を終えたのか、無表情の風岡がグラスを手にやって来た。

私はグラスを受け取り、冷蔵庫からお茶を出して注ぐ。



「はい、どうぞ」



それをソファーに戻ってた風岡に届けると、不意に腕を引かれた。

膝に乗せられ、頭を撫でられる。

何でだろうか。

電話の女性に重ねられてるのだろうか。

しかし……それでも嬉しかった。

風岡の胸に寄り掛かると聞こえる心音は、私を落ち着かせる。

メトロノームのように安定して刻まれる音だけは癒しを与えてくれる。



「私も、お茶欲しい……」



喉が渇いてる訳ではなく、もっともっと風岡が欲しいんだ。

お茶は単なる言い訳。

口にお茶を含んだ風岡の頬に手を添えて、自ら繋がりに行く。

心は繋がらなくても、他で何か一つ。

口端から、首へと流れ行く滴を風岡の指先で拭われながら、ソファーの上で抱かれる。

どこでも場所は構わない。

今だけでも、私を……足立侑李を愛して。

嘘の愛でも構わない。

冷たい瞳に、私を映してくれれば良い。

お金や地位なんて、いらないから――…。




< 6 / 53 >

この作品をシェア

pagetop