冷たい男
煙草を灰皿で揉み消して、重い腰を上げた。

時計を見ると、約束の時間5分前だった。

エレベーターで、18階から1階へと降りると、待ち合わせのエントランスでは、兄が面倒くさそうにソファーに座って居た。

背もたれに深く凭れ、長い脚を組んでる。

両親が時間通りには来ないと見越しての行動。



「久しぶり」



「おー。相変わらず煙草くせぇな」



「あ、忘れてた」



兄の隣に座り、ポーチから香水を取り出した。

そして母親からプレゼントされた何だかおばさんくさいエレガンスな香りを振り掛ける。

煙草より、この香水の匂いの方が私たちには合わないけど、両親の前では良い子を演じてるから仕方ない。



「将李-ショウリ-様、侑李様。オーナー様たちがご到着されました」



支配人に呼ばれた私たち兄妹は、溜め息を吐きながら立ち上がる。

オーナーとは、父親である。

父親はホテルを日本に留まらず海外を含めて25件も経営するホテル王で、母親は全国に7件の美容整形の病院を持つ院長。

玄関へと行き、満面の笑みを作って出迎えると、黒塗りのベンツが2台。

1台目からは両親。

2台目からは、ファッションデザイナーとして世界に名を馳せる長男の統李-トオリ-が降りて来た。

3人共ペンネームで働いてるが、身なりは完璧。




「侑李、元気だったか?」



「統李お兄さんこそ、お元気でしたか?」



将李と共に見た目は派手だが、根は真面目な人間の長男。

数ヶ月ぶりの再会ながら、早くも疲れる。
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