【続】興味があるなら恋をしよう
土曜の昼前、予定よりも早く私は帰って来た。

カ、チャ。
ドアを開けた途端、涼しい風が吹き抜けた。

課長はベランダに居たようだ。
鍵を開けた音に気が付いたのか、慌てたように駆け寄って来た。

「紬…」

抱きしめられた。

「…はぁ、随分早かったな…」

「…はい、ただいま、戻りました」

「…お帰り。…終わったのか?」

「…はい」

「そうか…。…お帰り…」

課長は…知っている。私が何をして来たか知っている。
それは、ここを出る前からきっと知っていた。
課長には隠せない。
私の事を知ろうとしてくれている人には、何も隠せない。

私の終わらせ方を初めから知っていた。でも何も聞かない。

荷物を肩から下ろして、引き取ってくれた。


「紬。もう少し…抱きしめさせてくれ」

「はい」

私はもう絶対、この人を裏切る事をしてはいけない。
課長の背中に腕を回して、可能な限り力一杯抱きしめた。

「紬…キスさせてくれ」

あ、…。もう塞がれていた。なんて、穏やかで…優しいキス…。

「紬…。この唇は俺を好きだと言ってる。俺の買い被り、…思い込みかな…」

「いいえ、課長。…匠さんの事、好きです。大好きです」

嘘ではない。私は課長の事が好き。これから、もっともっと好きになります。

「紬…。もっと聞きたいな。好きだと言ってくれ」

「はい」


課長の顔を包み背伸びをして唇に触れた。
んん…。届かない。少し触れた、これ以上は無理。
首に腕を回して引き寄せた。
課長の首が少し前屈みになった。
唇を食んでみた。

「…紬。そういう事か、…そういう事なら…」

腰に手を回されて囲うようにされ、チュ、チュッとキスされた。…かぁー。恥ずかしい…、どんな深いキスよりも照れてしまう。だって目を開けたまま何度もされるなんて。
片手で後頭部を押さえられた。

あ、…ん。
甘くて深くて、…逃げられない。


「一生懸命、この唇が…好きだと言ってた。ん…凄く好きだって言ってる。そうだよな?」
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