世界はまだ君を知らない
「新宿といういい立地に加え、購入率の高い客層。そんな好条件にあぐらをかいて、接客は知識不足だし、日商等の売上も頭に入っていない。個人成績が悪くとも笑って流すだけで改善には取り組まない……最悪な店だ」
うっ……反論できない。
時折聞こえてくる他店の話などから、自分たちが甘やかされた環境にいることはどことなくわかっていた。
けれど、それをよしとしてそのままでいたのは事実。痛いところをグサグサと刺され、その場の全員は押し黙る。
そこにさらに、仁科さんは容赦なく言葉を続けた。
「俺が来たからには1から変えるからな。馬場店長のように甘やかすつもりは一切ないのでよろしく」
淡々とした態度の彼に一瞬その場の空気は凍る。
「まぁまぁ、仁科店長!堅いこと言わずに気楽にやりましょうよ!」
そんな空気を打ち破るかのように、藤井さんはいつもの気楽な調子で、自分より背の高い彼の肩をポンポンと叩く。
きっと仁科さんの見た目から、自分と歳が近いと感じたのだと思う。
ところが、仁科さんはその手をバシッと叩いて払った。