世界はまだ君を知らない



「……堅いことじゃなく、当たり前のことしか言ってない」



無表情に冷たい目、淡々とした口調と低い声。それらに加えて誰よりも高い背から威圧感を漂わせる仁科さんに、藤井さんは固まると「は、はい」と小さな声で返事をして私の後ろにサッと隠れた。



き、厳しそうな人だなぁ。昨日とイメージが全然違う。

昨日の優しさと今日のこの厳しさに、オンとオフではこんなに違うのかと少し驚いてしまう。



「それでは早速だが、開店準備を終えたらお客様が来るまでの間、2名ずつ接客シミュレーションを行う。呼ばれたら来るように。他のスタッフは各自仕事に取り掛かってくれ」



9時半を指す時計を見ながら早速テキパキと指図をする仁科さんに、私たちは「はい」とそれぞれに開店準備を始めた。



けど、まさかあの昨日の彼が、新しい店長としてやってくるなんて思いもしなかった。

会えたらお礼、と思っていたのに……お礼どころじゃなくなってるなぁ。

それどころか私を全く気にしていないあたり、昨日助けた相手が私だってことすら気づいていないのかもしれない。



……それはそれで、ちょっと悲しい。

私にとっては、大きなことのひとつだったんだけどな。





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