世界はまだ君を知らない





「いらっしゃいませ、本日はどのような商品をお探しですか?」

「藤井。お辞儀が浅い。もっと笑顔も見せるように」



開店準備を終え、まだお客様が来る気配のない店内で、まず呼ばれた私と藤井さん。

私たちは建物2階の人目につきにくい位置で、商品であるベッドを目の前に『お客様に商品を勧める』というシミュレーションで仁科さんから接客態度のチェックを受けていた。



このお店は、1階にインテリアやシーツ・枕などの家具や寝具がディスプレイさせており、入り口側の階段から2階にあがればそこにはベッドやマットレスなどが並べられている。

マットレスや枕などの使い心地を実際に体験して選べることはもちろん、様々な質感や高さなどを自分に合わせて、オーダーメイドで作ることが出来るのだ。



……まぁ、私たちはベッドに対しての基本的な知識はあるものの、その接客のほとんどを馬場店長やベテランの上坂さんに頼ってしまっていたわけだけれど。



「千川。横に立っている間も笑顔を絶やすな。あと猫背、気をつけろ」

「はっはい!」



考えていると、突然こちらを見た仁科さんに、私は慌てて背筋を伸ばす。

けど仁科さん、もう私たちの名前覚えてるんだ……すごい。


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