世界はまだ君を知らない



すると1階の入り口の方から、ギイ、と、ドアが開く音と上坂さんの「いらっしゃいませ」という声が聞こえ、それらからお客様が来たのだと知る。

同じくそれを察したらしい藤井さんは、ニヤリと笑みを見せた。



「あ、そうだ。仁科店長〜、せっかくなんで社内トップの接客見せてくださいよ」



それまであれこれと注意されていた鬱憤を晴らすかのように、藤井さんはニヤニヤと仁科さんを肘で小突く。



あぁ、藤井さんまたそんな言い方して……。先ほど見た冷たい目を忘れたのだろうか。

気を抜くとすぐ調子に乗ってしまうのは、藤井さんの悪い癖だ。



「ちょっと、藤井さん……」



笑みを浮かべたままの藤井さんに注意しようとすると、仁科さんは頷く。



「いいだろう。よく見ておくように」

「って、えっ。いいんですか?」



彼は躊躇うことなく了承すると、スーツのジャケットの襟を正しながら、長い脚でコツコツと階段を降りていった。



あの愛想のない顔からどんな接客が出るのだろう、と私と藤井さんは物陰から覗き込む。


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