世界はまだ君を知らない

◇ここから






小学5年生のときの、バレンタインデー。

初恋の男の子にチョコレートをあげた。



当時、身長160センチ。髪の毛は今と変わらずショートで、兄のお下がりのパーカーやデニムを履いて……と見た目は完全に男の子だった私。

けれど頑張ってチョコレートを手作りして、勇気を出してチョコレートを渡したんだ。



相手は同じクラスの仲のいい男の子。いつもみたいに笑って、軽く受け取ってくれると夢見ていた。

けれど、現実はそうはいかないもので。



『うわっ、気持ちわりー!オトコオンナからのチョコなんていらねーよ!』



その言葉とともに、チョコレートは投げ捨てられた。



グシャグシャになった包みに、その年齢にして知った。

私が彼に恋をすることは、『気持ち悪い』ことなんだと。



それ以来、好きな人が出来ても一切気持ちを表すことはなくなった。



女の子としての気持ちを押し込めるほど、自分から女らしさを奪うように、背は伸び体は骨っぽくなっていく。

だんだんと父に似ていく見た目に、母は喜んで私に男らしい格好をさせるようになった。



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