俺様上司に、跪いて愛を乞え
しゃべるような会話も思いつかず、車内にはずっと沈黙が流れていた。

雨が車体を叩く音ばかりが響いて、耳についた。

見るともなく、車の色と同じようなシルバーグレーのスーツを見ていたら、


「……俺の部屋に、寄ってけよ」


そう、不意に言われた。


「嫌です」と、反射的に答える。


「勘違いすんなよ、濡れた服を乾かすだけだ。車をUターンさせるのも面倒だから、俺の部屋に行くだけだ」

私は、湿ったスカートの裾をギュッとつかんで、「そうですか…」と、唇を噛んだ。
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