大人にはなれない
不和

9) あるかもしれない可能性


9) あるかもしれない可能性



5月中は毎週『みらい塾』に通ったお陰なのか、中間テストで久し振りに一桁台に入った。


「うっわー。ミキちゃん絶好調じゃん。俺の勉強、もっと見てくれてもよかったのにー」

斗和は渡された各教科の順位表を見ながら、うらみがましく言ってくる。斗和の順位はいつも下位1/3のあたりをうろうろしているけど、今回の結果は底辺に近い悲惨そのものだった。

でも成績が悪ければ悪いほど周りの女子たちから「南くんやばいしっ」「追試見てあげよっか?」ってかまわれるんだから、斗和にとって必ずしも悪いことばかりじゃないらしい。


「アホか。勉強くらい自分でどうにかしろ」
「ムリムリ。一人で勉強したってバカが煮詰まるだけだしっ!それにミキの教え方、先生より分かりやすいし。あー、これでノートが見やすかったら言うことないのにさー」

ノート1冊買い足す金も惜しいから、俺のノートは出来るだけたくさん字が書けるように文字をかなり小さめに、上下の余白が見当たらないくらいぎっしり書き込んでいる。

チェックする先生もうんざりするぐらい目が痛くなるノートらしいが、俺さえ復習するとき見るのに困らなきゃ何も問題ない。


「だったら俺のじゃなくて息吹にでも借りりゃいいだろ」
「それもっとダメッ。あいつ、ノートの余白に破壊力満点の漫画絵ぶち込んでるから。あれ見たら頭もっとバカになるっ」

斗和は悲鳴のように言う。たしかに息吹のあまりに下手すぎて精神の平衡感覚じわじわ揺さぶられる絵を見たら、間違いなく勉強なんて手に付かなくなる。


「………それはともかく、いくらなんでも平均点取ったの1教科だけとかねーだろ。推薦狙いだからって今はスポ推も学力もそれなりに見られるトコもあるらしいから、おまえもうちょっとどうにかしたほうがいいんじゃねぇの」
「ふぁーい」

斗和は明らかに心ここにあらずの表情で窓の外を見ている。視線の先にあるのは体育館だ。

コートにいなくても、ボールを持っていなくても、斗和の心がバスケを追ってるってまるわかりだ。斗和は清々しいほど迷いがなく好きなものを追いかけていくけど、やっぱそういう姿勢って見ていて気持ちがいい。


「ダメだよ美樹。斗和にそんな説教しても聞いてないから」

息吹も順位表を受け取って席に戻って来た。そして「7位おめでとう」と言って揶揄を込めた視線を俺に向けてくる。

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