グリーン・デイ





「私ね、この先、行くところがないの。なんて言うのかしら……道標がないって感じ。そう、人生に道標がないの。何となく受けた大学に合格して、勧誘でたまたま一番最初にもらったチラシが軽音サークルで、それを理由に入ってみたら、新歓バーベキュー・パーティーに無理やり連れて来られて、まずい焼きそばを食べさせられた。その帰りの電車でちょっと乗り間違いをしたら、あなたとこうして出会った。そこからは、あなたがたった一瞬で私のこの先長い人生の主導権を握ったみたいに、私を一目惚れさせた。恋をさせた。それってどれだけすごいことか、あなたにはわかる?」



 僕は首を横に振った。



「私ね、あなたにこうして出会うまでは、誰とも付き合ったことなんてなかったの。もちろんキスの味も知らないわ。きっと目には見えない透明なコートでも羽織って外部から身を守っていたんだと思う。だって、私、自分で言うのもなんだけど、顔もスタイルも悪くないでしょ? そんな私をたった数秒間、目を合わせただけで惚れさせたのよ? 今聴いてたグリーン・デイのアルバムを何となく借りて、そのアルバムの一曲目に入っていた『アメリカン・イディオット』を聴いた時と同じようにね。ねえ、あなたって何者なの?」



「何者でもない。」僕は続けた。



「何者でもないし、何者であったか、そしてこれから何者になるのかもわからない。」



「何者になるかもわからないって、当たり前のことよ。将来自分がどうなるかなんて、今を生きている自分次第でしょ? 少なくともあなたはまともだと思うわ。ううん、すごい人なのよ。すごい人で、すごい人になるための経験を今までに積んできて、それからこの先、今よりももっとすごい人になるの。もし、あなたが何かでビジネスをしたいと思って、私に投資なり、融資なりを頼んで来たら、私は何も言わずに札束を積むでしょうね。それくらい将来の可能性に信憑性が高いのよ。将来性がある男性って女の子はみんな好きだし、私もその女の子の一人ってことかしらね。」



 あんまり買いかぶらないで欲しいと思った。褒められることは嫌いじゃないが、褒められると調子に乗ってしまうタチなのだ。




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