グリーン・デイ
「さっき、道標がないって言ったよね?」
「ええ、言ったわ。」
「それってつまり、これからのキミの、アヤカの人生を僕に決めてほしいってことなのか?」
アヤカは、「そうねえ……。」と間をとった。
「自分でもおかしなことを言っているのはわかってるわ。でも、あなたならきっと私がこの先選ぶであろう道よりももっといい方の道へ導いてくれる気がするの。なんて言うか……例えば、空がただ青いだけじゃなくて、なぜ青いのか、どう青いのかまで言語を介さないで教えてくれる気がするの。」
「言語を介さずになんて、そんなこと不可能だ。僕はテレパシーなんか使えない。それに空はどう見たって青にしか見えない。」
「テレパシーが使えないことくらい、私にもわかってるわ、子供じゃないもの。でも、それを表現する方法はいくらでもあると思うの。絵だったり、あなたが好きな音楽だったり、時にはさっきのように目を合わせただけで伝わることがあると思う。現に私はあなたと目を合わせた数秒で、あなたの名前がケンジだってわかったし、あなたも私の名前がアヤカだってわかったでしょ? 違う?」
僕はアヤカに言われて初めて自分がこの女性を「アヤカ」だと知っていることに気が付いた。しかし、別段驚くことはなかった。きっとこの幻想世界を描いた小説家の執筆が不十分だっただけだろう。初稿くらいならこんなこと当たり前に起こる。
それならそれを正してやるのがキャラクターの仕事だ。
「確かに僕がなぜキミの名前を知っているのかはわからない。科学で証明できないことなんてないと思っていたけど、それ自体が間違いだったと言うべきか……いずれにせよ、僕は確かにケンジで、キミは確かにアヤカだ。」
アヤカは満面の笑みで頷いた。