グリーン・デイ





「行かんの?」



「どこに?」



「病院。」



 母はリンゴを貪りながら訊いた。父に顔を見せないのかと。もちろん、僕もそのつもりで実家に帰ってきた。しかし、この懐かしく、落ち着ける家に帰ってきたからだろうか、なかなか病院に行く勇気が出なかった。



「もうすぐ夕方やろ? 早よ行かんと面会時間終わるよ?」



 そんなことはわかっている。しかし、どうせ講義に出る予定もないし、ジャズの練習はメール一つでどうとでもなる。僕は帰る日を気にしなくていい。行く暇はいくらでもある。



「母さん、あともうちょいしたら行くけど、あんたも来る?」



 僕は断った。「いい。」長旅の疲れとアヤカのこともあり、僕は疲れていた。今はゆっくりと休みたかった。死ぬように眠りたかった。



「出るんやったら鍵持って出てね。ここ、置いとくから。」



 ガラガラと玄関の扉が開く音がした。その音を聞き届けると、スマホの電源を落として、眠った。




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