心に届く歌
「そういえばアンス、聞いても良いかしら」
「何をだ?」
玄関まで行き、わたしは口を開く。
ずっとずっと、聞きたかったことを。
「どうして……わたしのこと、フッたの?」
唐突だった。
アンスを紹介してくれたお母様から「アンスくんがエルとの婚約をやめたい」って言われたのは。
その日の前日まで、楽しく家の中でかくれんぼしていたはずなのに。
いきなり婚約を破棄したいと言われた。
理由を聞かされぬまま、わたしはアンスと会わなくなった。
今日、数年ぶりに出会った。
「……理由、聞いてねぇの?イヴェールさんから」
「聞いてないわ。
婚約をやめたいってアンスが言ったってことしか聞いていないわ」
「……子どもながらにさ、思ったんだよね。
エルちゃんは、俺を婚約者として見ていない。
俺を、仲の良い異性だとして見ているって」
「友達以上恋人未満ってこと?」
「そう。
確かに俺、エルちゃんといるの楽しかったよ。
あの頃、本気で俺……エルちゃんのこと好きだったし」
「えっ……」
初めてお父様以外の異性から受けた『好き』
わたしはその場に固まった。