心に届く歌
「俺の場合は本気で。
キスしたいとか抱きしめたいとか。
ずっと傍に居てエルちゃんの笑顔守りたいって思ってた。
でも……エルちゃんの俺を見る目は違った。
誰が見ても、明らかに俺を婚約者じゃなくて友達として見てた。
それで子ども心に傷ついて、傍にいられないって思った。
俺じゃエルちゃんの、恋人として好きな人にはなれないって。
傍にいるの、辛いでしょ?
俺は本気でエルちゃんが好きなのに、エルちゃんはこっちを見てくれないんだから。
辛い気持ちでいるのが嫌で、俺は逃げた。…これが婚約破棄の真相」
わたしは、誰も好きになったことがない。
家族は好きだけど、本当に恋愛としての好きがない。
婚約者だって、両親や使用人が連れてくる人で、わたしが選んだ人じゃない。
「ごめんなさい……アンス。
わたし、気付かないうちにアンスのこと傷つけていたのね…」
「気にするなエルちゃん。
俺はあの時本当に良い決断をしたと思っているから」
「自分の気持ち押し殺したんでしょ?
良い決断じゃないじゃない!」
思わず叫ぶ。
アンスは婚約者の中でも1番仲が良い人だったから。
仲が良い人を傷つけていた事実に、酷く辛くなる。
「いや……。
確かに自分の気持ち押し殺したのは事実だよ。
俺が自分から破棄したのに後悔していたのも事実だし。
だけど……本当にあの時俺は良い決断をしたよ」
「アンス…?どうして言いきれるの?」
アンスの顔は清々しくて。
今も後悔しているとはどうしても思えないほど、すっきりした顔をしている。