心に届く歌







「俺の場合は本気で。

キスしたいとか抱きしめたいとか。
ずっと傍に居てエルちゃんの笑顔守りたいって思ってた。

でも……エルちゃんの俺を見る目は違った。
誰が見ても、明らかに俺を婚約者じゃなくて友達として見てた。

それで子ども心に傷ついて、傍にいられないって思った。
俺じゃエルちゃんの、恋人として好きな人にはなれないって。

傍にいるの、辛いでしょ?
俺は本気でエルちゃんが好きなのに、エルちゃんはこっちを見てくれないんだから。

辛い気持ちでいるのが嫌で、俺は逃げた。…これが婚約破棄の真相」




わたしは、誰も好きになったことがない。

家族は好きだけど、本当に恋愛としての好きがない。

婚約者だって、両親や使用人が連れてくる人で、わたしが選んだ人じゃない。




「ごめんなさい……アンス。
わたし、気付かないうちにアンスのこと傷つけていたのね…」


「気にするなエルちゃん。
俺はあの時本当に良い決断をしたと思っているから」


「自分の気持ち押し殺したんでしょ?
良い決断じゃないじゃない!」




思わず叫ぶ。

アンスは婚約者の中でも1番仲が良い人だったから。

仲が良い人を傷つけていた事実に、酷く辛くなる。





「いや……。

確かに自分の気持ち押し殺したのは事実だよ。
俺が自分から破棄したのに後悔していたのも事実だし。

だけど……本当にあの時俺は良い決断をしたよ」


「アンス…?どうして言いきれるの?」




アンスの顔は清々しくて。

今も後悔しているとはどうしても思えないほど、すっきりした顔をしている。




< 193 / 539 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop