心に届く歌
「では、始め!」
一斉に裏返しの紙をめくる音が教室に響く。
絶対に落とせないテスト。
僕は問題用紙をザッと見渡し、深呼吸をしてから書き出した。
マークシート形式ではないので、全部手書きだ。
国全体で行われる学力テスト。
合格点である980点以上の合格率は、年によって変わるけど、平均2%。
受けているのは学生だけではなく、受験したいと言った社会人も受けることが出来るため、
かなりの人数受けていることになる。
見たことのある問題を変えた問題ばかり出てきている。
見直しもしっかりしつつ、どんどん解いていった…。
「終わり!」
何問あるんだと突っ込みたいぐらいの問題数を全て解き終わった時。
午後5時までのテストは全て終わった。
テストだけで授業は終わりなので、今日はこれで帰宅。
「……お疲れ!シエル」
少し疲れたようだけど、それでも明るい笑みを見せるアンス。
完全に疲れ切って机に突っ伏していた僕の頭をコツンと突いた。
「アンス……お疲れ様」
「帰るか」
「うん」
「立てるか?顔色悪いけど」
「疲れただけだから平気……」
「今日は早めに寝ろよ?」
「うん……ありがとう」
鞄に筆記用具をいれて校舎を出ると。
校門近くに生徒が多く集まっているのが見えた。
「何だ何だ?芸能人か?」
「芸能人?学校に来るの?」
「学園ドラマとかの撮影に来る時あるらしいぜ」
人がどれだけ集まっていても、校門を通らなくては帰ることが出来ない。
僕らは生徒が集まっている部分を通り過ぎようとして…呼び止められた。
「おいアンス」
アンスが立ち止まり、僕も一緒に立ち止まる。
生徒をかきわけ出てきたのは、金色の目立つ髪にダークスーツを崩して着ている男。
声が低く、多分僕よりも年上だろう。
「……何の用だ」
アンスは僕を何故か男に隠すように立ち、聞いたことがない低い声で威嚇していた。
「聞いたぜ?最近俺の婚約者の家に入り浸っているって」
「へーえ婚約者?女遊びしているくせに婚約者がいたのか」
「ああいるぜ?
まぁ子どもを作れば良い話だけどな」
アンスと金髪の男の間には、確かに炎が飛び交っていた。
見知らぬ男が怖くなり、思わず何かに縋りたくなってキュッとアンスの服を引っ張った。
アンスは服を引っ張られたことに気が付き、少し首を後ろに回してくれた。
「大丈夫だ。すぐにこんな奴との会話終わらせるから」
ニッと笑ったアンスの隣から、男の端正な顔立ちが覗き込む。
アンスの服を引っ張り、ガタガタ震えている臆病な僕を見て、男は鼻で笑った。
「何コイツ、男のくせに震えちゃって。情けねぇの」
「お前が怖いからだろ」
「おい貴様」
男はアンスの言葉を無視して僕を睨み付けた。
「貴様だろ。俺の婚約者に近づいているダサい村人ってのは」
「…………」
俺の婚約者……?
……まさか。
「……プーセ・クザンさん、ですか。
エル・ソレイユ様の婚約者の」
「さん付けするな、様付けしろ。貧乏人が」
この人が……エル様の婚約者。
エル様という素敵な婚約者がいるにも関わらず、女遊びをしているというアンスの従兄弟は。