心に届く歌
「お前は?貧乏人。俺の婚約者の何?」
「コイツはシエル。
エルちゃん専用執事候補だ」
「勝手に人の婚約者をちゃん付けするな。……って、は?」
金髪の男…プーセ・クザンは僕の顔を見て、ぶはっと吹き出し、
お腹を抱えて笑い出した。
「アハハッ、コイツが執事?
ソレイユ家も落ちたもんだな。
村出身の貧乏人が執事になれるわけないだろ」
「プーセ。シエルを馬鹿にするな。
こう見えてシエルはかなり優秀なんだぞ」
「優秀、ねえ。
つまりは大学出ているってことか?」
「いや…出てねぇと思うけど。な、シエル」
アンスの言葉にガクガクと頷いた。
大学なんてそんなの…夢のまた夢の夢だ。
「大学出ていねぇくせに優秀?
アンスさ、俺のこと馬鹿にしているわけ?」
「……」
「貧乏人は知らねぇだろうから教える。
俺、大学出ているんだよね?
俺の方がよっぽどの学力優秀者なわけ。
この学校村人で行けるから、そこそこ優秀なんだろうけど、
俺の足元にも及ばねぇよ」
「おいプーセ、言い過ぎだ」
「貧乏人。
執事になりたいなんて叶わねぇんだから、思う前に持つな」
プーセさんはそう言うと、数人の制服姿の女子生徒を連れてどこかへ向かう。
僕はまだガタガタと震えたままアンスにしがみついていた。
「シエル。おい大丈夫か?」
「アンス……僕に執事なんて無理…?」
「テスト受けただろ。自信持て。
それに、シエルが執事になるかどうかを最終的に決めるのはプーセじゃない」
「……ありがと、う」
ゆっくりアンスの背中から離れる。
するとアンスは肩にかけていた鞄をかけ直すと、僕の前に背中を向けしゃがみこんだ。
「乗れ。送る」
「でも……」
「シエルをこのまま帰したらぶっ倒れそうで怖い。
ただでさえ疲れているのにあの追い打ちだからな」
「……ありがとう…」
僕はお言葉に甘えて背中に乗ることにした。
僕を支えて立ち上がったアンスが歩き出し、揺られている間に僕は眠りに落ちた。