心に届く歌
「何だぁ?夜のテンションでイッちまったか?」
わたしとシエルは同時に勢い良く振り向く。
バルコニーの入り口に立っていたのは。
「プーセっ……!」
「プーセ様っ……!」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべているプーセ・クザン。
金髪を手で撫でつつ、プーセは手元の機械をわたしたちに見せた。
「それっ……!」
「ご察しの通り、カメラだぜ。しかもご丁寧に録音機能付き」
プーセは手に持っている金色に輝くカメラをいじる。
デジタルカメラの小さな画面に出てきたのは、わたしがシエルに抱きついているシーン。
「このデータ、新聞社とかテレビ局に送っておくから」
「プーセっ……何するつもり!?」
「その貧乏人が執事になったのはまぁ良いんだよ。
色々とコキ使えるからな。
だが、俺の婚約者を奪うのは許さねぇなぁ」
プーセは舌打ちをし、スーツのジャケットから煙草とライターを取り出し、煙草に火を点けた。
ふーっと煙を夜空に吐くと、プーセは笑った。
「俺も、婚約者としての立場があるんでね。
早速送らせてもらうから」
プーセはカメラをポケットに仕舞うと、目にも止まらぬ速さで部屋を飛び出して行った。
追いかけようとしたものの足が速すぎて追いつけない。
シエルもまだ微熱があるというので、あっという間にプーセの姿は見えなくなった。
「エル様っ……!」
「大丈夫……わたしが絶対シエルのこと守るから」
シエルを傷つける奴は、わたしが許さない。