心に届く歌
「失礼致します」
メイド長がわたしを連れてきたのは、お父様の部屋。
中にはお父様だけではなく、お母様もいて、それにドクもいた。
「エル。座りなさい」
「はい」
わたしはお父様とお母様と向き合う形で座った。
隣にはドクが座っていた。
「説明してもらおうかエルにドクくん。
あの少年は一体誰だ」
シエルのことは、運転手や他の使用人たちから伝わっているはず。
わたしは自分の知っている限りのことを話すことにした。
「お父様。
この間ティラン伯爵のお屋敷に行ったでしょう?
あの時にお父様に紅茶をかけ、クビを言い渡されていた子、覚えているかしら」
「覚えているが?」
「その子がその少年……シエル・セレーネよ」
シエルの本名に、ドクが息を飲んでわたしを見た。
「お嬢様、彼の本名を知ったのですか?」
「ええ。
聞けたのは名前だけで、年齢はまだだけどね」
半ば脅迫っぽい聞き方だったけど、良い収穫だった。
お父様は娘が連れてきた得体の知れない少年があの子だと知り、驚いているようだった。