心に届く歌
「……お嬢様」
「何?」
「よろしいのですか?シエル様と別れても」
「……しょうがないじゃない。
わたしお風呂に行くわね」
ダッとドクの顔を見ないまま、わたしはお風呂場に向かった。
ドクの顔を見たら、泣いてしまいそうだったから。
「……ッ」
湯船に浸かりながら、わたしは堪えていた涙を流した。
初めて目の前に現れた、一般国民の異性。
初めて出来た、お友達。
その“初めて”は明日の朝、全て失われる。
わたしと離れた方が、シエルの幸せ。
だけど、それを考えるだけでわたしは辛く苦しい。
もっともっと、お友達のことを知りたかった。
時折強く目を瞑る理由も。
多くの傷を負ったその理由も。
「……シエル…」
シエル・セレーネ。
わたしに出来た、初めてのお友達。
わたしはずっと、お友達の名前をお風呂場で呟いていた。