一寸の喪女にも五分の愛嬌を

(……まだ付き合っているんだ。もう二年もなるのにね……)

 声を失いただ呆然しながら、現実逃避なのかそんなことを考えていた。


「こんばんは。俺は職場の後輩なんです。仕事ことでの話をしていたんですよ」


 私が何も言わないから、成瀬が当たり障りなく軽く説明をしてくれた。

 突然成瀬に話しかけられ、綾乃は少し驚いたような表情を見せてから、すぐに微笑んだ。

「そうなんですか。急に声をかけてごめんなさい」

 それから私へと向き直ると、また困ったような笑みを浮かべ、申し訳なさそうに言った。

「薫、また連絡するね」

 彼女の声は、とても小さかった。

 私の反応も返事も待たずに、彼女は彼の腕を引いて歩き始める。

 足を止めたまま固まっている彼、宗一郎を綾乃は無理矢理引っ張って歩く。

 横顔に、宗一郎の視線を感じながら、私はその場に凍り付いたままじっと立ち尽くしていた。


「……先輩?」


 遠慮がちな成瀬の声に、何か反応しなければと思うのに、私は何も返せない。

 目の前が暗い。灯りはどこに行ってしまったのか。

 耳の中が幕を張ったように音がぼやける。

 そして成瀬を見ることもできないでいた。
< 101 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop