一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 車内では互いに無言のまま。

 前を見つめる成瀬と、うつむいている私。

 エンジン音だけがやけに大きく聞こえる中、私の腕をつかんでいた成瀬は、その手を開き、すぐに手を握りしめた。

 ドキリとすると同時に、ズクリと胸に痛みが走る。

 もう二年も経っているのに、あの二人を見て、こんなに衝撃を受ける自分が情けなく、そして成瀬を不快にさせてしまったことが、なぜか取り返しのつかないことをしたような気分になっていた。


 タクシーを降りる頃になってようやく私は気持ちが落ち着いてきた。


 支払いを終えた成瀬がまた私の手を握りしめ、一緒に当然のようにマンションへ向かおうとするので、私は立ち止まる。

「成瀬、ごめんね。ちょっと久しぶりの人に会って動揺しちゃったみたい。急に黙り込んで不快にさせたね」

 上手く笑えただろうか。

 もっといつものように強気で言えたらよかったのに、今はこう言うだけで精一杯だった。

 成瀬は相変わらず手を握りしめたまま。

 男らしい大きな手に包まれていると、落ち着かない。

 そんな私を成瀬はしばらく見つめ、それから何も言わないまま、私の手を引いてマンションへと歩き始めた。
< 103 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop