一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 今、ここから走って逃げ出したい。

 会社なんて辞めて、逃げ出してしまいたい。

 そんな気持ちにさせられる。

 しかも成瀬はそんなことを聞かされても、まだ彼女たちと一緒にいる。

 目の前が暗くなるのを感じた。

(でも……醜態をさらすわけにはいかない)

 グッと強く唇を噛みしめ、ピンと背筋を伸ばして強い足取りでその場から離れる。

 噂など、ほんの一欠片も私にダメージを与えていないと知らしめるように。

 成瀬がどんな反応をしたのかなんて気にしない。

 気にしたくない。


 何かがせり上がってきて喉を塞ぐ。

 息が苦しくて目眩を覚える。


(ダメだ、こんなことでは社会人失格だ)


 深い溜息と共に、重たくのしかかる不安定な気分を吐き出し、私は仕事にとりかかった。

 それをそっと見つめている稲田さんの視線に、全く気がついていなかった。

 ただ資料を作りに没頭し、それがいつの間にか心地よくさえ感じていた。

 せっかく買ってきたコーヒーを飲んでいなかったことに気がついたのは、仕事が終わってからだった。


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