一寸の喪女にも五分の愛嬌を
終業後、第二会議室の前で呼吸を一つ整えてからドアをノックする。
「どうぞ」
中から早川さんの返事がすぐに返ってきた。
あれから成瀬の方は一切見ることなく過ごしたから、あの噂を聞いた成瀬の反応など知らない。知りたくもない。
あいつが特別だなんてことはないのだから、今更どんな噂をされていたって気にしない。
はずなのに……一日、ずっと背中が重い。
(背後霊でも乗ってるの?)
背後霊だったらちょっとくらい助けなさいよね、などとぼやきながら会議室のドアを開いた。
「急に呼び出してごめんね」
爽やかに笑った早川さんに、私はニコリと笑顔を見せる。会社では絶対に見せない素顔を隠しておく。
「いえ、大丈夫です。ご用件はもしかして光元さんの件ですか?」
問いかけた私に、早川さんは苦笑した。
「全然変わらないな、柴崎さんは。テキパキしているのに当たりは柔らかくて、それでいてムダ話を外に向けてしない。本当に人事課にはなくてはならない存在だね」
早川さんが人事課にいた当時は、私にはまだ彼氏がいた。
あの頃は喪女ではなく、いわゆるリア充だったはずなのに、今と全然変わらないと言われてしまえば不思議な気がする。